むくみとは?
人体の水分は体液として、細胞内液(体内水分全体の約2/3)と細胞外液(全体の1/3)に分布しています。細胞外液はさらに間質液(細胞間を満たす液体)と血漿(血液中に含まれる液体成分)に分かれます。むくみは身体の中の水分の分布が変化した状態です。
よく長時間の立ち仕事のあとに足のすねを指で強く推すと、そのあとしばらく指のあとが消えないことがあると思います。靴下を脱いでも、ゴムの痕がなくならないなどの経験をされた方も多いのではないでしょうか。足の場合「靴下のあとが少しつく」くらいの状態は正常です。
むくみは一時的なもので自然に改善することもありますが、長引く場合や全身に広がる場合は、病気のサインであることもあります。むくみは一過性のものもあれば、注意が必要な場合もあります。日常的にむくみを感じる方は、その原因を探ることが重要です。
むくみの原因は多岐にわたり、日常の生活習慣に起因するものから、病気が関与するものまでさまざまです。以下では、主な原因を紹介します。
むくみの原因
むくみの原因は、
- 浸透圧の低下
- 静水圧の上昇
- 血管透過性の亢進
- リンパ管の閉塞
この4つのタイプに分かれます。それぞれの原因に対して、適切な治療が必要です。
浸透圧の低下
水分の移動は浸透圧によって調整されます。浸透圧は、溶液中の溶質の濃度差によって生じる力で、水分は濃度の低い方から高い方へ移動します。細胞膜は半透膜であり、水分は自由に移動できますが、タンパク質などの大きな分子は自由に移動できません。このため、細胞内外に浸透圧差があると、水分が移動し、浸透圧を均衡に保とうとします。 血管内の膠質浸透圧は、主に血漿タンパク質(特にアルブミン)によって生じる圧力で、水分を血管内に保持する力として働きます。膠質浸透圧が低下すると、水分が血管から間質液へ漏れ出しやすくなります。
原因となる病気
- ネフローゼ症候群(腎臓からアルブミンが漏れてしまう病気)
- 肝硬変(肝臓でアルブミンの生産が低下している など)
- そのほか消化管疾患
→ タンパク質、ビタミン、ミネラルの不足、栄養失調を生じる病気が隠れている可能性もあります。
静水圧の上昇
静水圧は血管内の水分が外に押し出される力を指します。特に毛細血管での静水圧は、血液が血管から間質液に水分を移動させる主要な力です。 血管内の水分が多くなりすぎたとき、または静脈がせき止められ、血液が流れる圧が上昇し、血管からしみ出す水分が増えることで生じます。水分や塩分を摂りすぎたときにむくむのは血管内の水分量が多くなり、静水圧が上昇するためです。
原因となる病気
- 心不全(心臓が血液を効率よく循環させることができない)
- 腎不全(腎臓が水分を効率よく尿として排泄することができない)
- 下肢静脈瘤(下肢の静脈弁が壊れて血液が逆流して静脈圧が上昇する)
- 深部静脈血栓症(静脈の中の血栓)や腹腔・骨盤内腫瘍などで血管が圧迫されたとき
心不全によって、むくみ(浮腫)の症状が現れるのは、心臓のポンプ機能が低下することにより、血液の循環が悪くなり、体内の水分バランスが崩れるためです。
心不全では、心臓が全身に十分な血液を送り出す力が弱まります。この結果、血液が心臓に戻るのが難しくなり、血液が静脈内に滞留します。血液が静脈内に滞留すると、静脈圧が上昇します。特に下肢や肝臓など、重力の影響を受けやすい部位では、この静脈圧の上昇が顕著に現れます。静脈圧が上昇すると、毛細血管の中の圧力も高くなります。この結果、血液中の液体成分(血漿)が毛細血管から組織間に漏れ出し、むくみが発生します。特に足や足首など、重力の影響で血液が溜まりやすい部分でむくみが目立ちます。
心不全により腎臓への血流が減少すると、腎臓は血圧を上げようとし、塩分と水分の再吸収を促進します。これにより、体内の水分量が増加し、さらなるむくみを引き起こします。
血管透過性の亢進
毛細血管の透過性が異常に高まると、血管内の水分がより多く周囲の組織に漏れ出します。これにより、急性または慢性のむくみが発生します。 炎症反応:組織の炎症が起こると、サイトカインやヒスタミンなどの炎症メディエーターが毛細血管の透過性を高め、水分が漏れやすくなります。外傷や感染、アレルギー反応などが原因でこのようなむくみが見られます。
原因となる病気
- 膠原病(リウマチ関連疾患)
- 内分泌疾患(主に甲状腺疾患)など
リンパ管の閉塞
手術でリンパ節を取り除いたり(癌治療のリンパ節郭清)、放射線治療によって、リンパの流れが停滞したりことで起こります。(リンパ浮腫)
長時間同じ姿勢でいること
長い間立ちっぱなしや座りっぱなしでいると、重力の関係で下肢に水分がたまり、むくみの原因になります。長い間歩行した場合はあまりむくみません。これは筋肉のポンプ作用によって静脈血流循環が促進しているためです。
慢性心不全について
増加傾向のある心臓病
日本には心不全の患者さんが約120万人いるといわれています。人口の減少に反して心不全患者が増え続けているこの状況は、感染症が爆発的に増える「パンデミック」という言葉になぞらえて「心不全パンデミック」と呼ばれています。
心不全とは、心臓が悪いため、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、命を縮める病気です。心不全は、さまざまな循環器疾患が最後にたどり着く終末像です。弁膜症、虚血性心疾患、心房細動などが原因になります。心房細動は脳梗塞の原因としても有名ですが、心房細動から脳梗塞を発症する人よりも、心不全を発症する人の方が多いと言われています。
一般的に、心不全の予後(どれくらい長く生きられるか)はよくないとされ、重症化した心不全の予後は「がんより悪い」といわれることもあります。かつては「不治の病」といわれたがんも、治療の進歩により、がんになっても長生きできる、中には治る時代になりました。しかし心不全の根治治療は心臓移植ですが、65歳未満が適応年齢なので、多くの高齢者の場合は根治治療を受けられません。よって、生活習慣改善と薬物治療と心臓リハビリテーション(運動療法)を受けて、心不全を受け入れて長く付き合う必要があります。
心不全のステージ
心不全にはA〜Dの4つのステージがあり、それぞれのステージに進まないように予防する機会があります。
[出典:日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン 急性・慢性心不全診療ガイドライン 2017年改訂版]
ステージAとBは心不全予備群、ステージCは心不全の症状が出現、ステージDは難治性・末期心不全と言われています。
心不全のステージA
ステージAは、肥満・糖尿病、脂質異常症、高血圧といった心臓病になるリスクが高いです。ステージAに進まないためには、運動習慣・肥満改善、禁煙、減塩、節酒などのよい生活習慣を身につけることが重要です。
心不全のステージB
ステージBは、不整脈や心筋梗塞、弁膜症といった心臓病になっていますが、心不全の症候がない状態です。次のステージCに進行することを防ぐために、適切な治療(カテーテル手術や外科手術)を行います。
心不全のステージC
ステージCでは心不全の症候が出現している状態です。目標は心不全による再入院と突然死を防ぐことです。カテーテル手術、外科手術に加え薬物療法を行う集学的治療が望まれます。入退院を繰り返すたびに1段階ずつ身体能力と生活の質(QOL)が低下していきます。身体能力とQOLの維持に、心臓リハビリテーションが効果的です。
心不全のステージD
ステージDでは難治性の末期心不全で、緩和ケアや終末期ケアが必要です。
緩和ケアは病気の進行中であっても始められるケアであり、患者さんの身体的、心理的、社会的、霊的なニーズを総合的にサポートするものです。一方、終末期ケアは、病状が末期に達し、治療の効果が望めない段階において、患者さんが最期の時間を穏やかに過ごせるよう支援することが目的です。
どちらも患者さんやその家族にとって、辛い時間を少しでも楽にし、安心感を提供する大切な医療ですが、それぞれの段階や目的に応じて適切なケアが提供されます。
むくみは心不全の進行を示す重要な兆候の一つです。なるべく早めに受診して、適切な治療を受けましょう。
心不全・むくみの検査
InBody検査
心不全・むくみの診断に有用な体成分分析装置
当院では 体成分分析装置 InBody380(2024年現在 新機種)を導入しています。
InBody380は、体重計やBMIだけではわからない詳細な体成分データを提供し、体脂肪量、筋肉量、体水分量のほか、部位別(腕、脚、体幹)の筋肉量や脂肪量も分析します。約30秒で測定が完了するため、患者さんに負担はほとんどかけません。
また、測定結果を数値やグラフで視覚化できるため、患者さんが状態の変化を把握しやすくなり、安心感や理解が深まります。小さな変化も可視化されるため、治療に対するモチベーションの維持にもつながります。
InBody380のメリット
InBody380を使用することで、心不全やむくみの患者さんには以下のメリットが得られます。
水分バランスの正確な評価
InBody380は細胞外水分比(ECW/TBW)を測定できるため、体内のむくみやうっ血の程度を客観的に評価できます。ECW/TBWの値が0.400を超えるとむくみの可能性が高く、治療の経過も数値で確認できるため、効果的な経過観察が可能です。
部位別の詳細な分析
腕や脚、体幹などの各部位ごとの水分量を測定できるため、むくみがどの部位に強く出ているかを具体的に把握できます。特に下半身のむくみなど、部位ごとの変化を確認するのに役立ちます。
栄養状態と筋肉量の評価
心不全患者は活動量の低下や食欲不振で筋肉量が減少しやすいため、InBody380の筋肉量測定により、筋力維持を目指したリハビリテーションの効果が確認できます。また、位相角の測定で栄養状態も評価できるため、浮腫があっても体調管理に役立ちます。
これらのメリットにより、InBody380は心不全やむくみの患者さんの状態評価、治療効果の確認、長期的な健康管理をサポートする有用なツールです。私たちにとっても、より精
NT-proBNP検査
密な診断や治療計画の立案に役立つ情報を提供します。
NT-proBNP検査は、心不全の診断や病状の管理に役立つ血液検査です。この検査は、心臓が正常に血液を送り出すのが難しくなったときに、心臓から放出される「NT-proBNP」という物質の血中濃度を測定します。このNT-proBNP(N-terminal pro B-type Natriuretic Peptide)は心臓の筋肉が過度に負担を受けたときに分泌されるホルモンで、心不全の診断・重症度評価・治療効果の確認などに有用な検査です。
NT-proBNP検査の目的
NT-proBNP検査は以下のような目的で行われます:
- 心不全の診断:息切れや浮腫などの症状が心不全によるものかどうかを調べるために使用されます。
- 心不全の重症度評価:NT-proBNPの値は心不全の重症度と相関しているため、その濃度によって病状の進行具合を把握できます。
- 治療効果のモニタリング:心不全の治療中にNT-proBNPの値を定期的に測定することで、治療が効果を上げているかどうかを判断します。
検査値の基準
NT-proBNPの基準値は年齢や性別によって異なりますが、一般的には若年者で300 pg/mL未満、高齢者(75歳以上)で450 pg/mL未満が正常とされています。基準値を超える場合は、心不全やその他の心血管疾患のリスクが考えられ、さらなる検査や治療が検討されます。
- NT-proBNP値は腎機能や年齢の影響も受けるため、必ずしも心不全のみを反映するわけではありません。腎不全がある場合、NT-proBNPの値が高くなることが多いため、他の検査結果と総合的に判断します。
- 体調や薬物療法によっても値が変動することがあるため、特定の時点だけでなく、経時的な変化を追うことが重要です。