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高血圧症

高血圧症とは

高血圧は動脈内の血圧が持続的に高い状態を指します。血圧は、心臓が血液を全身に送り出す際の圧力を示し、通常は「収縮期血圧(上の血圧)」と「拡張期血圧(下の血圧)」の2つの値で表されます。高血圧症は、これらの値が一定の基準を超えて高くなる状態を指し、長期間にわたって血圧が高い状態が続くと、心臓や血管に負担をかけ、さまざまな健康問題を引き起こす可能性があります。

高血圧症の基準

一般的には、以下の基準をもとに高血圧症と診断されます(日本高血圧学会のガイドライン参照):
収縮期血圧(上の血圧)が140 mmHg以上
拡張期血圧**(下の血圧)が90 mmHg以上
ただし、高血圧症の診断には、複数回の測定を通じて平均的な血圧値を確認する必要があります。また、血圧の値は年齢、性別、体格などによっても異なるため、個々の患者に応じた基準も考慮されます。

高血圧症の症状

高血圧症は「沈黙の病」とも呼ばれることが多く、初期にはほとんど自覚症状がないことが特徴です。そのため、多くの人が健康診断や偶然の血圧測定を通じて初めて自分が高血圧であることに気づくことがよくあります。
高血圧症の症状は、急に血圧が上がったときや、血圧が非常に高い状態が続いたときに現れることがあります。これらの症状が現れた場合には、緊急の対応が必要な場合もあります。特に、以下のような症状が現れた場合には、すぐに医師の診察を受けることが重要です。

注意が必要な症状

  • 強い頭痛と吐き気、嘔吐
  • 目の前が見えにくくなる、または視力が急激に低下する
  • 胸の痛みや圧迫感
  • 呼吸困難や急激な息切れ
  • 意識がもうろうとする、または混乱する

これらの症状は、脳卒中や心筋梗塞、急性腎不全などの重篤な合併症の兆候である可能性があります。多くの患者さんが血圧の上昇に気づかないまま生活を続け、長期間にわたって血管や臓器にダメージが蓄積されてしまうことが多いです。その結果、突然の心筋梗塞や脳卒中といった深刻な病気を引き起こすことがあるため、日常的な血圧管理が非常に重要です。
高血圧症の予防と管理には、生活習慣の改善(食事療法、運動療法、禁煙、節酒)も大きな役割を果たします。

高血圧症の前触れ、進行した場合にみられる症状

高血圧の状態が長期間続くと、いくつかの症状が現れることがあります。以下は、高血圧症が進行することで現れる可能性のある症状です。

頭痛

特に朝起きたときに感じる頭痛は、高血圧の典型的な症状の一つです。頭痛の場所は後頭部に多いとされますが、個人によって異なります。この頭痛は、血圧が非常に高い場合に起こりやすいとされています。

めまい

血圧が高い状態が続くと、脳への血流が不安定になり、めまいが起こることがあります。これは、立ちくらみやバランスの問題として感じられることもあります。

動悸

高血圧によって心臓にかかる負担が増えると、心拍が早くなることがあります。これが動悸として感じられることがあります。動悸は不安感や息切れと共に現れることもあります。

耳鳴り

血圧が高い状態が続くことで、耳鳴りが起こることがあります。これは、耳の中の血管に高い圧力がかかり、音を感じる神経に影響を与えるためと考えられています。

肩こりや首の張り

血圧が高いことで筋肉が緊張し、肩こりや首の張りが強くなることがあります。これは、長時間のストレスや緊張とも関連しています。

視覚異常

高血圧が長期間続くと、網膜の血管がダメージを受け、視覚異常(例えば、視野がぼやける、暗く感じる、視野が狭くなるなど)が現れることがあります。

疲労感や倦怠感

血圧が高いと心臓に負担がかかり、全身の血流が悪くなるため、疲労感や倦怠感を感じることがあります。特に、軽い運動や日常的な動作で疲れやすくなることがあります。

息切れ

血圧が非常に高い状態が続くと、心臓に過度の負担がかかり、心不全の初期症状として息切れが起こることがあります。これは、体の組織に十分な酸素が供給されないために起こります。

高血圧症の原因・種類

高血圧症はその原因別に大きく2つの種類に分かれます。

本態性高血圧(原発性高血圧)

高血圧症の約90%以上がこの本能性高血圧です。明確な原因がなく、遺伝的要因や生活習慣(塩分の多い食事、肥満、運動不足、ストレス、喫煙、飲酒など)が複合的に影響して発症します。加齢に伴う動脈硬化も原因となるため、中高年に多く、健康診断で指摘される高血圧はたいていこのタイプです。また遺伝的要因として、両親が高血圧の人は血圧症になる可能性が高くなると考えられています。遺伝的要因は小さくありませんが、生活習慣を変えることで、高血圧を改善できます。
主な要因として次のようなものが挙げられます。

  • 塩分の過剰摂取:
    高塩分の食事は血圧を上昇させる原因となります。
  • 肥満:
    体重が増えると、血液を体全体に送るために心臓がより強く血を送り出す必要があり、結果として血圧が上がります。
  • 運動不足:
    定期的な運動が不足していると、血圧が高くなるリスクが増します。
  • 喫煙・飲酒:
    喫煙は血管を収縮させ、血圧を上昇させます。過度のアルコール摂取は高血圧の原因になります。
  • ストレス:
    ストレスが高血圧を引き起こす可能性があります。
  • 加齢:
    年齢とともに血管が硬くなり、血圧が上昇しやすくなります。
  • 遺伝:
    家族に高血圧の人がいる場合、発症するリスクが高まります。

二次性高血圧

二次性高血圧は特定の病気や状態が原因で発症する高血圧です。腎臓病、内分泌疾患(ホルモンの異常)、大動脈の異常などが原因となることがあります。以前は、二次性高血圧は非常に少ないと考えられてきましたが、現在は、高血圧全体に占める割合は10%以上と、決して少なくないことが分かってきました。

二次性高血圧を疑うケース

若年での発症

本態性高血圧は、20~30代のうちは血圧が高めでも概ね正常範囲とされています。年齢を重ねるにつれて、血圧は上がっていきますが、30歳以下の方がそれまで正常範囲だった血圧に急上昇がみられたら、二次性高血圧が疑われます。

高血圧の重症度や進行の速さ

中高年の方でも、急に高血圧になった場合は、何らかの病気の影響を疑います。また、本能性高血圧の方で数週間のうちに急に数値が上昇して高血圧が進んだ場合、あるいはこれまで降圧薬などでコントロールできていた方が、急に血圧が下がらなくなった場合などでも、二次性高血圧の発症が疑われます。
二次性高血圧が疑われる場合は、血液・尿検査、画像診断などで原因となっている病気などを特定することが重要です。高血圧そのものによる症状はほとんどなく、気付かないことも少なくありません。二次性高血圧は原因が特定できる場合、原因となる病気の治療を行うことで高血圧を改善できます。
これまで高血圧でなかったのに、健康診断などで急に高血圧を指摘されたといった場合は放置せず、早めにかかりつけ医を受診しましょう。

高血圧のリスク

高血圧は血管内に生じる圧力が高くなる病気なので、実に様々な血管の病気を招く引き金となります。私たちの体にはあらゆる場所に血管が張り巡らされている以上、その影響は全身に及びます。高血圧の管理が不十分なまま放置されると、生命を脅かす深刻な疾患につながる可能性があるため、定期的な血圧測定と早期の治療・予防が不可欠です。特に心臓や脳、腎臓などの重要な臓器に深刻な影響を及ぼす可能性があります。適切な治療と生活習慣の改善によって、これらのリスクを大幅に低減することが可能です。

虚血性心疾患

心筋梗塞

高血圧が長期間続くと、動脈の内壁に負担がかかり、血管が傷つきやすくなります。傷ついた血管内壁にコレステロールが蓄積し、プラークが形成されることで動脈が狭くなる(動脈硬化)可能性があります。この狭くなった血管が血栓(血の塊)で詰まると、心筋に十分な血液が供給されなくなり、心筋梗塞を引き起こします。心筋梗塞は、心筋が壊死し、心臓の一部が機能しなくなる危険な状態です。

狭心症

狭心症は、心臓の冠動脈が部分的に狭くなり、心筋への血流が一時的に不足する状態です。高血圧は冠動脈に動脈硬化を引き起こし、その結果として狭心症を発症するリスクが高まります。狭心症の症状としては、胸の痛みや圧迫感、息切れなどがあります。

脳卒中(脳梗塞・脳出血)

高血圧は、脳の血管にも大きな影響を与えます。以下の2つのタイプの脳卒中のリスクを高めます。

脳梗塞

高血圧によって脳の動脈が狭くなったり、血栓が形成されたりすると、血管が詰まり、脳の一部に酸素や栄養が供給されなくなります。この状態が脳梗塞です。脳梗塞は、脳細胞が死んでしまい、身体の一部が麻痺したり、言語障害が生じることがあります。

脳出血

高血圧により脳の血管が弱くなると、血圧の急激な上昇によって血管が破れて出血することがあります。これが脳出血です。脳出血は、出血した部分が圧迫され、脳機能が急激に低下し、意識障害や半身麻痺を引き起こすことがあります。

心不全

高血圧は、心臓に対して持続的な負担をかけるため、心臓が血液を送り出す力が弱くなることがあります。これが心不全です。心不全は、心臓が体全体に十分な血液を供給できなくなる状態を指し、息切れ、疲労感、足のむくみなどの症状を引き起こします。特に、左心室が厚くなる「左心室肥大」が起こると、心臓のポンプ機能が低下し、心不全のリスクが増加します。

腎臓病(慢性腎臓病)

腎臓は血液をろ過して老廃物を排出する重要な臓器です。高血圧は、腎臓の細かい血管(糸球体)に負担をかけ、徐々に腎臓の機能を低下させる可能性があります。これにより、慢性腎臓病(CKD)が進行し、最終的には腎不全に至ることもあります。腎不全になると、血液透析や腎移植が必要となる場合があります。

大動脈瘤と大動脈解離

高血圧が長期間続くと、大動脈(心臓から全身へ血液を送り出す大きな動脈)の壁に負担がかかり、壁が弱くなることがあります。これが大動脈瘤です。大動脈瘤は動脈の壁が膨らんだ状態であり、破裂すると大出血を引き起こし、生命を脅かすことがあります。
また、高血圧により大動脈の内膜が裂けることがあります。これを大動脈解離と呼びます。大動脈解離は非常に危険で、放置すると短期間で致命的になる可能性があります。

末梢動脈疾患

高血圧は、手足などの末梢の血管にも影響を与えます。動脈硬化が進行すると、手足の血管が狭くなり、血液の流れが悪くなります。これが末梢動脈疾患です。この疾患により、足や手の冷感、しびれ、痛みなどの症状が現れることがあります。重症化すると、組織の壊死(壊疽)を引き起こすこともあり、最悪の場合は手足の切断が必要になることがあります。

網膜症

高血圧は目の網膜(光を感じる部分)の血管にもダメージを与えることがあります。これにより、高血圧性網膜症が発生します。網膜症の症状としては、視力の低下や目の前がかすむ、視野の欠けなどがあります。特に、糖尿病を併発している場合、高血圧性網膜症のリスクがさらに高まります。

認知症

高血圧は認知症、特に血管性認知症のリスクを高めるとされています。高血圧によって脳の小さな血管が損傷し、脳に微小な梗塞や出血が起こることで、脳細胞の損傷が進み、認知機能の低下が引き起こされることがあります。また、アルツハイマー型認知症のリスクも高まるとする研究もあります。

高血圧症(本態性高血圧)の治療

高血圧の治療では、血圧を正常値(患者さんそれぞれの目標値)まで下げることで、脳心血管病などの合併症の発生を予防したり、進行・再発を防いだりすることを目標とします。一般的には、生活習慣の改善などの非薬物療法と、薬物療法で血圧をコントロールしていきます。

  1. 生活習慣の改善:
    食事療法: 塩分を控えた食事、バランスの取れた食事を心がける。
    運動療法: 定期的な有酸素運動を行う(例:ウォーキング、ジョギングなど)。
    禁煙と節酒: 喫煙をやめ、アルコールの摂取を控える。
    -体重管理: 健康的な体重を維持する。
  2. 薬物療法:
    生活習慣の改善だけで血圧が十分に下がらない場合、医師の指導のもとで降圧薬(血圧を下げる薬)を使用します。これには、利尿薬、カルシウム拮抗薬、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)などが含まれます。

中長期的な高血圧の管理

高血圧の治療を効果的に進めるためには、最初の診療で適切な検査を行い、正確に血圧を把握することが大切です。ほかの病気が高血圧の原因になっていないかを調べ、高血圧以外の危険因子も考慮して、高血圧の管理計画を立てていきます。

高血圧症とメタボリックシンドロームの関連

メタボリックシンドロームは、内臓脂肪型肥満、高血圧、高血糖、脂質異常症の4つのリスク因子が重なる状態を指します。高血圧症は、メタボリックシンドロームの主要なリスク因子の一つです。内臓脂肪が増えると、血圧を上げるホルモンが過剰に分泌され、血圧が上昇しやすくなります。また、血糖値や脂質異常も血管に負担をかけるため、高血圧症が進行しやすくなります。この状態は、心臓病や脳卒中のリスクを大幅に高めるため、早期の予防と治療が重要です。

メタボリックシンドロームの治療方法

治療は、主に生活習慣の改善と薬物療法の二つのアプローチがあります。

食事療法

  • 塩分を控える:
    高血圧の原因となるため、1日6g未満を目指しましょう。
  • バランスの良い食事:
    野菜や果物を多く取り、脂質や糖質を控えることが重要です。特に内臓脂肪を減らすためには、低カロリーで栄養バランスの良い食事を心がけます。
  • 食物繊維の摂取:
    野菜、豆類、全粒穀物などを多く取り入れると、血糖値やコレステロールのコントロールに役立ちます。

運動療法

有酸素運動: 週に3〜5回、30分以上のウォーキングやジョギングなどの有酸素運動を行うことで、内臓脂肪を減らし、血圧を下げる効果があります。
筋力トレーニング: 筋肉量を増やすことで、基礎代謝が上がり、体脂肪を燃焼しやすくなります。

薬物療法

必要に応じて、降圧薬や脂質異常症の薬、糖尿病治療薬を使用します。これらの薬物は生活習慣の改善と並行して行うことで、効果を最大限に引き出します。
生活習慣の改善は、継続的に取り組むことで効果が現れます。高血圧症やメタボリックシンドロームの予防・治療には、まずは食事や運動に気をつけることから始め、必要に応じて医師と相談しながら薬物療法を取り入れると良いでしょう。

CureApp HT 高血圧治療補助アプリ

当院ではデジタル治療アプリを提供する会社【CureApp】の「CureApp HT 高血圧治療補助アプリ」を導入しています。高血圧症の治療を補助するアプリとして患者さんが自身の高血圧を管理し、改善することをサポートします。この治療法は、医師の指導のもとで利用され、個々の患者さんに合わせた治療計画を提供できる点が特長です。(現在では保険適用となっています。)

アプリの役割

CureAppの高血圧治療アプリは、患者さんの血圧データや生活習慣に基づいて、個別に最適化されたアドバイスや指導がアプリを通じて提供されます。患者さんは日々の血圧や体重、食事内容、運動量などをアプリに記録します。これにより、アプリはリアルタイムで患者の状態をモニタリングし、必要に応じてフィードバックを行います。 患者さんが設定した目標に向かって努力できるよう、動機づけを高めるためのメッセージやリマインダーが提供されます。これにより、生活習慣の改善を持続的にサポートします。

治療計画の共有

医師は患者さんの状態に応じて、アプリに治療計画を入力します。患者さんはこの計画に従い、日々の管理を行います。定期的な診察時には、アプリに記録されたデータを基に、医師が治療の進捗状況を評価します。これにより、より精度の高い治療方針が決定されます。アプリから得られるデータを元に、医師が治療を調整することが可能です。例えば、薬の処方や生活習慣の改善指導がより具体的かつ的確になります。 生活習慣の改善がより確実に行われることで、血圧の安定化や改善が期待できます。

患者さんのエンゲージメント向上

患者が自分の健康状態に積極的に関与することで、治療のモチベーションが高まり、結果として治療効果が向上することが期待されます。

CureAppによる高血圧治療は、医師の指導の下で使用することが前提となっており、デジタルツールを活用することで、従来の治療方法と比較して、よりパーソナライズされたアプローチが可能となっています。これにより、患者一人ひとりの生活習慣に合った治療が実現し、長期的な健康維持に貢献します。