脂質異常症とは
脂質異常症は、血中脂質のバランスが悪くなる病気です。
血液中の脂質には、次の4種類があります。
- コレステロール(LDLとHDL)
- 中性脂肪(トリグリセライド)
- リン脂質
- 遊離脂肪酸
この中で、脂質異常症に関連する脂質は、コレステロールと中性脂肪です。
脂質異常症の種類・診断基準値
以下の3つのうち、1つでも当てはまれば、脂質異常症と診断されます。つまり、血液中の脂質が多すぎたり少なすぎたりする状態です。
高LDLコレステロール血症 | LDLコレステロールが多すぎる状態 (基準値:140mg/dL以上) |
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低HDLコレステロール血症 | HDLコレステロールが少なすぎる状態 (基準値:40mg/dL未満) |
高中性脂肪血症 | 中性脂肪が多すぎる状態 (基準値:150mg/dL以上) |
これまでは血液中の脂質が高い状態をすべて「高脂血症」とよんでいました。しかし、HDLコレステロールが低い場合も動脈硬化のリスクとなることから「脂質の代謝とバランスの異常」という名前として「脂質異常症」となりました(2007年に改定)。
現在でも、コレステロール全体(総コレステロール)が高い病態については、高脂血症という診断名を使うことがあります。
健診で脂質異常を指摘されたら
現在、企業などで行なっている職場健診で、もっとも多く見つかるのがこの脂質異常症です。一方で、健診で異常値を指摘されても、それを深刻に捉えない方が多い傾向にあります。これは、異常値を示していても、とくに症状が出ないため、重大に受け止められないことが要因のひとつとして考えられます。
脂質異常症を放置していると、血管の壁にコレステロールがたまり、動脈硬化をまねき、深刻な血管の病気の原因になります。
当院では、脂質異常症に対して、病気の程度を確認してリスク分けをしていきます。もし健診で脂質異常症を指摘されたら、重大な病気を未然に防ぐための良い機会と受けとめ、受診して適切な治療を受けるように心がけましょう。
脂質異常症の原因
脂質やコレステロールという言葉から、脂質異常症の原因は「生活習慣の乱れ」というイメージを持つ方は多いのではないでしょうか。生活習慣がもたらす病気ではありますが、実際は他にも様々な発症原因があります。
脂質異常症の原因は、大きく3つのケースが挙げられます。
- 遺伝や体質
- ほかの病気や薬剤の影響
- 生活習慣の乱れ
遺伝や体質
LDLコレステロールの処理機能に異常がある遺伝子をもっていると、生活習慣に問題がなくても脂質異常症を発症する場合があります。これを遺伝性脂質異常といいます。たとえば生まれつき血液中のLDLコレステロールが異常に増えてしまう病気は「家族性高コレステロール血症」と診断されます。
ほかの病気や薬剤の影響
- 糖尿病
- 甲状腺機能低下症
- 慢性腎臓病 など
ほかの病気の合併症として、脂質異常症を発症することがあります。これを二次性脂質異常といいます。また、降圧薬や免疫抑制薬などの薬にも、脂質の代謝に異常を起こすものがあります。
生活習慣の乱れ
- カロリーオーバー
- 動物性脂肪や糖分の過剰摂取
- 運動不足
- 内臓脂肪型肥満
- 喫煙
- 大量の飲酒 など
脂質異常症の原因として生活習慣の乱れが挙げられることはよく知られています。しかし、それだけで発症するわけではなく、患者さんそれぞれの体質も影響しています。
脂質異常症の原因は1つとは限らず、このように複数の原因が複雑に絡み合い発症している方は少なくありません。たとえば、脂質異常症になりやすい遺伝子や体質を持っていても、食事や生活習慣に気を配りながら生活できれば、発症リスクを抑えることができます。逆に、異質異常症になりやすい体質の方が生活習慣を乱すと、発症リスクは高まります。
当院では、患者さんのライフスタイルを把握し、まずは原因を見極めることに注力します。そして、患者さんお一人お一人に合わせた脂質異常症の治療法を選択していきます。
脂質異常症の症状に隠れた病気
血液中の脂質は本来、体に必要な量が一定に保たれています。しかし、何らかの理由で増えたり減ったりしてアンバランスになっても、自分自身ではその変化を感じることができません。とくに変調を感じない(症状がない)ことが、「大したことはない」と自己判断し放置してしまう方が多い理由のひとつです。
動脈硬化が進行して起こる病気
脂質異常症を放置すると動脈硬化のリスクが高まります。動脈硬化によって血管が狭くなり、詰まったりもろくなったりすると、体には様々な障害が起こります。
※ 詳しくは動脈硬化のページをご覧ください。
中性脂肪高値が引き金となる急性膵炎
急性膵炎は膵臓が急激に炎症を起こす病気です。様々な原因によって発症しますが、その中でも中性脂肪(トリグリセリド)値が非常に高い場合(一般的に500 mg/dL以上、特に1000 mg/dL以上)、「高トリグリセリド血症による急性膵炎」が発症するリスクが増加します。
血液中に中性脂肪が増えると、膵臓の微小血管において血液の流れが遅くなり、血液が粘稠(ねんちゅう)になることがあります。これにより、膵臓の細胞に十分な酸素が供給されず、膵臓の組織がダメージを受けやすくなります。
中性脂肪が高い状態では、リポプロテインリパーゼという酵素の活性が低下します。この酵素は血液中の脂肪を分解する役割を持っており、その働きが低下すると、膵臓に炎症が起こりやすくなります。中性脂肪が分解される際に生成される遊離脂肪酸が、膵臓の細胞に直接的な毒性を持ち、炎症を引き起こすことがあります。
急性膵炎のリスク因子
中性脂肪高値が急性膵炎を引き起こすリスクが高まる背景には、いくつかの因子があります。
アルコール摂取
アルコールは膵臓に対して直接的なダメージを与え、中性脂肪高値と相まって急性膵炎のリスクを高めます。
肥満
肥満は脂質異常症の主な原因の一つであり、急性膵炎のリスクを高める要因です。
糖尿病
糖尿病も中性脂肪高値と関連しており、急性膵炎のリスクが増加します。
急性膵炎の予防と対策
中性脂肪が高値の場合、急性膵炎のリスクを軽減するために、医師と相談し、適切な対策を講じることが重要です。
- 食事療法
- 運動療法
- 薬物療法
主にこの3つを実施します。
中性脂肪高値による急性膵炎を予防するためには、脂質を控え、特にトランス脂肪酸や飽和脂肪酸を減らし、健康的な食事を心がけることが大切です。
たとえば、脂肪分の多い部位の肉は、飽和脂肪酸が多く含まれているため、控えめにするのが良いでしょう。代わりに、鶏肉の胸肉や魚、大豆製品など、脂肪分が少ないタンパク質源を選ぶと良いです。
バターやマーガリンなどの食品には飽和脂肪酸やトランス脂肪酸が多く含まれています。オリーブオイルやキャノーラ油のような不飽和脂肪酸を含む油を使うことをお勧めします。クリームや全乳の乳製品も飽和脂肪酸が多いため、低脂肪または無脂肪の乳製品を選ぶようにすると良いでしょう。また、揚げ物やパン類、スナック菓子なども脂質が多いため、控えめにすることが勧められます。代わりに、野菜や果物、全粒穀物、豆類など、食物繊維が豊富で血中脂質を改善する効果がある食品を多く摂るよう心がけてください。アルコール摂取を控えるか、適度な範囲にとどめることも心がけましょう。
病気の予防や健康維持には、無理のない定期的な運動が大切です。日々の生活に運動をプラスして、体重管理を行います。
薬物療法
必要に応じて、医師の指示のもとで脂質低下薬を使用することも考慮されます。
脂質異常症の再検査・治療方針
健康診断や人間ドックなどでの血液検査で異常を指摘された方は、受診して再検査を実施します。診察を受けて治療方針を立てましょう。
脂質管理目標値の設定
問診
- 既往歴、家族歴
- 自覚症状の有無
- 脂質異常症を指摘された時期
- 普段の食習慣
- そのほか生活習慣(運動、喫煙、飲酒、常用薬など)
などを確認します。
身体所見
脂質異常症の中でも、家族性高コレステロール血症には黄色腫などの特徴的な症状がみられます。
検査所見
- 血清脂質の測定
・総コレステロール
・中性脂肪
・HDLコレステロール
・アポたんぱく ほか - 生化学的検査
- 内分泌的学検査
- 尿検査 など
以上の検査を踏まえて病態を把握し、さらに冠動脈疾患の経験がない場合(一次予防)、経験がある場合(二次予防)に分けて、脂質管理目標値の設定を行います。
脂質異常症の治療
脂質異常症の治療では、血中脂質の目標値を定めてコントロールしていきます。中でも重要視されるのが、LDLコレステロールの管理です。LDLコレステロールは動脈硬化の最大のリスクファクターであり、数値が高いほど動脈硬化性疾患(心筋梗塞、脳梗塞など)を招く危険性が高まります。
主な治療は以下の4つです。
- 食事療法
- 運動療法
- 生活習慣の改善
- 薬物療法
食事療法
食事によるエネルギー量をコントロールすることが重要です。食べ過ぎを防ぎ、脂質や糖質の制限を行います。
『日本人の食事摂取基準(2020年版)』では、個人が1日に必要とするエネルギー量(推定エネルギー必要量)を、年齢、性別、身体活動レベルに応じて示しています。食事療法ではこれらの目標値を設けながら改善を図ります。
日本人の食事摂取基準(2020年版)
『日本人の食事摂取基準(2020年版)』は、日本の厚生労働省が策定した「健康な生活を送るために必要な栄養素の摂取基準を示したガイドラインです。個人の健康管理のほか、病院や学校、保健所などでの食事指導や栄養指導の基礎資料として幅広く活用されています。また、食品メーカーや飲食業界も、製品の栄養設計や提供メニューの考案時にこの基準を参考にしています。
運動療法
運動にはエネルギーの消費量を増加させ、脂肪の代謝を促す効果が期待できます。肥満を解消し、中性脂肪を減らす・HDLコレステロールを増やすことに繋がります。
ウォーキングを1日8,000歩
1日の運動量の目安として「ウォーキングを1日8,000歩」があげられます。ウォーキングは健康維持や体力向上にとても効果的です。8,000歩は約6キロメートルに相当し、約1時間半の軽い運動量です。これを日常生活に取り入れるには、通勤時に少し遠回りをしたり、エレベーターの代わりに階段を使ったりするなど、小さな工夫を積み重ねることがポイントです。無理のない範囲で、少しずつ歩数を増やしていくことが大切です。
研究によると、1日8,000歩のウォーキングは心血管疾患のリスクを減少させ、血圧を改善し、体重管理にも寄与します。また、ウォーキングはメンタルヘルスの向上にも役立ち、ストレスや不安の軽減にも効果があります。
ウォーキングの健康効果についての情報は、複数の研究や公的な健康機関から報告されています。以下のような出典があります。
アメリカ心臓協会(American Heart Association, AHA)
AHAは、1日7,000〜10,000歩のウォーキングが心血管疾患のリスクを減らし、全般的な健康状態を改善するのに効果的であると報告しています。
世界保健機関(WHO)
WHOは、週に少なくとも150分の中程度の有酸素運動(例えばウォーキング)を推奨しており、1日8,000歩のウォーキングはそのガイドラインに沿った運動量になります。
生活習慣の乱れを改善
脂質異常症や動脈硬化発症のリスク要因となる生活習慣を把握し、改善を図ります。とくにお酒の飲み過ぎ、タバコ、ストレスは発症リスクを高めます。節酒(禁酒)や禁煙、ストレス解消につとめましょう。
薬物療法
生活習慣の改善が治療の基本となりますが、不十分な場合はお薬による治療を検討します。ただし、薬物療法を開始するかどうかは、患者さんにリスク因子がどれだけあるかを考慮することが重要です。場合によっては、食事療法や運動療法の継続で経過観察する場合もあります。
冠動脈疾患の経験がある方、リスク因子が多い方は、脂質異常症の診断がつき次第、すぐに薬物療法の導入を検討します。
脂質異常症に関するよくあるご質問
二次性脂質異常は、どのような治療を行いますか?
二次性脂質異常は、特定の病気や医薬品の使用が引き起こす脂質代謝のトラブルです。病気の例としては、甲状腺機能低下症、肝疾患、腎障害、糖尿病などが挙げられます。医薬品は、ステロイドホルモン、利尿剤、避妊薬などが原因となる場合があります。これらの基礎となる病気の治療や、原因となる薬剤の調整・中止によって、脂質異常症の改善が見込めます。
これまでコレステロール値ばかり気にしていましたが、健診でLDL値の方が重要と指摘されました。どのような違いがあるのでしょうか?
一般的に、コレステロール値は「総コレステロール値」を指します。これまでは総コレステロール値が動脈硬化との関連があると考えられてきました。しかし、この総コレステロール値はLDLコレステロールとHDLコレステロールの合計値であり、動脈硬化との関連はLDLコレステロールの方が重要視されます。LDLコレステロールは、増えすぎると血管に溜まり、動脈硬化の原因になります。そのため、動脈硬化の危険性を調べるためには、LDL値が極めて重要です。
中性脂肪値が低いのが気になるのですが、治療は必要でしょうか?
脂質の中でも、中性脂肪は食事の影響を受けやすい物質です。そのため、中性脂肪値が低い場合は、消化器官の吸収不良や、栄養障害を考慮する必要があります。
注意が必要なのは、背景に原因となっている病気がある場合です。できるだけ早めに原因疾患を診断して治療することが大切ですが、低下している中性脂肪値を増やす必要はありません。もし原因となる病気がない場合は、治療する必要はありません。