失神(意識消失)とは
一般的に意識を失って倒れることを「失神」や「気絶」などと呼んでいます。医学的には脳全体に十分な血液が供給されず、一時的に意識消失することを「失神」と呼びます。
通常、失神は、数秒から数分と比較的短く、後遺症を残さず、元に戻るため、軽くみられることがしばしばあります。失神が起きたときの場所は状況によっては、転倒による怪我、入浴中に失神して溺れたり、自動車運転中に失神して交通事故を起こしたり、危険な場合があります。また、突然死に至る心臓の病気を抱えていることがあります。
若年層(14〜25歳)と高齢者層(70歳以上)に多発すると言われています。失神の原因として比較的安全な「神経調節性失神」が多くの割合を占めますが、命に関わる「心原性失神」も10%程度であります。また、最も多いのは「原因不明」と言われ、失神の原因診断が難しいと言われる所以です。
めまい・ふらつき、失神の症状
失神には
- クラクラするようなめまい感
- ふらつき感
- 目の前が暗くなる
- 吐き気
- 冷や汗
- 動悸
- 胸痛
- 腹痛 など
上記の症状が前触れとして感じる場合と、感じない場合があります。このような症状や失神前後の状況は、失神診断の重要な情報になります。失神中の状況は自分では記憶が曖昧なことが多いため、周囲の人に聞いておきましょう。
失神の原因
心臓の病気による失神(心原性失神)
不整脈や心臓の弁膜症など、心臓に関わる様々な理由で失神します。失神患者の全体の10%と、頻度は高くありませんが、命の危険があるため早期の診断と治療を必要とします。
自律神経性の失神
※ 反射性失神・神経調節性失神・血管迷走反射性失神など
長い時間立っていた時や興奮したとき、疼痛などをきっかけに失神することが多く、きっかけが分からないこともありますが、怪我をしなければ生命に影響しないと言われている「危険性の低い」失神です。失神の原因では最も多いと言われています。
起立性低血圧
立ち上がった直後に失神します。神経疾患や脱水などの原因が考えられます。
その他、いろいろな病気が原因で失神しますが、脳梗塞や脳出血によるものは少ないと言われています。
失神と似た症状や疾患
てんかん発作
全身または一部の筋肉の痙攣(けいれん)を伴うことが多く、回復後、意識障害の時間が長いことが特徴です。
心因性発作
心理的なストレス・不安が原因で意識を失うことで、ヒステリー・パニック・興奮によるものなどがあります。
低血糖
血糖値が異常に低くなると、意識障害や昏睡状態に陥ることがあります。
低酸素血症
肺の病気や睡眠時無呼吸症候群などにより、体の血液中の酸素が十分に送られない状態が続くと、意識障害を起こすことがあります。
めまい
くるくると頭が回るようなめまい(回転性のめまい)や、ふわふわする感覚を覚えるめまいの場合は、耳や脳の病気の症状が疑われます。また、貧血によってめまいが生じている可能性もあります。貧血を起こす疾患は以下の通りです。
- 消化器内科
→ 消化器系からの出血(胃潰瘍、大腸ポリープなど) - 婦人科
→ 月経過多や子宮筋腫など、女性特有の原因 - 腎臓内科
→ 腎機能の低下が原因 - 血液内科
→ 鉄欠乏性貧血以外の貧血(悪性貧血、再生不良性貧血、溶血性貧血など)
失神の診断
問診
失神は診察時に症状が消えていることが多いため、過去の病気や前触れ症状などについての問診が非常に重要です。当院ではWEB問診を導入しています。予約取得後にWEB問診のご利用にご協力ください。
医師が知りたいポイント
- 初めての失神かどうか(再発の場合はその頻度)
- 前触れの症状があったか
- 失神時の状況(運転中、食事中など)
- 失神時に介護してくれた人の証言(持続した時間、痙攣(けいれん)の有無)
- これまでかかったことがある病気、特に心臓の病気
- ご家族の病気(心臓の病気、突然死、失神)
- 服用中の薬剤
- 飲酒習慣の有無、またはその量
関連する症状の特徴
- くらくらするようなめまい感
- 動悸
- ふらつき感
- 胸痛
- 目の前が暗くなる
- 腹痛
- 吐き気
- 気が遠くなる
- 冷や汗
検査
- 体の診察
- 心電図検査
- 血圧(座位、立位)
- レントゲン検査
- 採血検査
- 心臓超音波検査
- 長時間心電図(ホルター心電図検査)
- 運動負荷試験
※ そのほか、植込み型心電計移植術、心臓電気生理学的検査、心臓カテーテル検査などが必要になる可能性があります。その場合は高次医療機関へご紹介いたします。
自律神経性の失神の治療と対策
生活習慣の改善
睡眠不足や運動不足を避けること。水分を十分に摂取すること。過度の減量をしないこと。アルコールが原因にある場合はアルコールを控えることに注意します。なぜ失神してしまうかを理解することも治療のひとつです。
失神回避法
失神回避法は、失神の前兆を感じた際に実践できる効果的な方法です。特に血管迷走神経性失神(VVS)の患者さんに有効です。これらの方法を理解し、前駆症状を感じた際に迅速に実践することで、多くの場合失神を回避できます。ただし、失神の原因によっては医療機関での適切な診断と治療が必要な場合もあるため、繰り返し失神が起こる場合は医師に相談することが重要です。
失神の前兆を感じたら、すぐに横になるか座る
横になるか座ることで、転倒や怪我を防ぐことができます。これは最も基本的で効果的な方法です。その場でしゃがみ込む姿勢をとることも有効です。
等尺性対抗圧迫法の実践
立位のまま以下の動作を行うことで、一時的に血圧を上昇させ失神を回避できる可能性があります。
- 足を交差させて足・腹部・臀部の筋肉を緊張させる
- 両腕を組んで引っ張り合う
- 手をぎゅっと握る(ハンドグリップ)
足の運動
立位のまま足を動かすことも効果があります。
チルトトレーニング
失神の再発予防に効果的な方法として、チルトトレーニングがあります。
詳細は下記の通りです。
起立調節訓練法(チルトトレーニング)
起立性調節障害(OD)や血管迷走神経性失神などの症状改善や予防に効果的な方法です。起立調節訓練法は、薬物療法よりもエビデンスレベルが高く、効果的な治療法として推奨されています。ただし、個々の症状や状態に応じて適切に実施することが重要です。実施にあたっては、必ず医療専門家の指導を受けるようにしましょう。
以下にその詳細を説明します。
- 壁に背中を密着させる
- かかとを壁から約15-20cm離す
- 下半身を動かさない状態で30分間維持する
- 1日1-2回、毎日継続する
このトレーニングを続けることで、血管の抵抗が上がり、失神が起こりにくくなります。
実施頻度と注意点
最初は5分程度から始め、徐々に時間を延ばしていいましょう。気分が悪くなったり、動悸やめまいを感じたら中止し、担当医に報告することが大切です。
チルトトレーニングの効果
チルトトレーニングを継続することで、以下の効果が期待できます。
- 血管の抵抗が上がり、収縮しやすくなる。
- 失神が起こりにくくなる。
- 起立性調節障害の症状が改善される。
その他の配慮事項
起立性調節障害の改善には、チルトトレーニング以外にも以下の点に注意することが重要です。
- 十分な水分摂取(体重40kg以上の小児は2L/日、40kg未満は1.5L/日以上)
- 適度な運動(リカンベントバイク等を用いた下肢の運動から始める)
- 生活リズムを整える
- 誘発条件(長時間立位、激しい運動、脱水、高温)を避ける