心房細動とは?特有の症状
心房細動は、心臓の上部にある心房が異常に速く、不規則に興奮と収縮を繰り返すことで生じる不整脈です。このように心拍数が異常に速くなる不整脈を、頻脈性不整脈といいます。心房細動は頻脈性不整脈のひとつで、通常、心房は一定のリズムで収縮し、心室に血液を送り込む役割を果たしますが、心房細動が起こると、このリズムが乱れ、心房が震えるような動きをします。その結果、心房内で血液が効果的に送り出されず、血液が停滞する可能性があります。
心房細動の症状は患者さんによって大きく異なります。全く症状が出ない方もいらっしゃいますし、激烈な症状をうったえる方もいらっしゃいます。
心房細動に特有の症状はありませんが、頻脈性不整脈の症状として「動悸や息切れ、胸の痛みや苦しさ」をうったえる方が多いです。また、心房細動が発生すると、尿意を催すとうったえる患者さんも時々見受けられます。
患者さん自身が心房細動に気付くのは、一般的に健康診断が多いです。12誘導心電図検査を行った際に、心房細動と診断されるケースがあります。
心房細動は進行性の病気で、発作性→持続性→慢性(長期持続性)へと進行していきます。発作性心房細動とはときどき生じる心房細動が自然に停止する状態です。そしてそれが1週間以上持続して、自然に停止せず、治療を必要とする場合を持続性心房細動といいます。さらに病態が進行して、心房細動の状態が1年以上持続する場合、慢性(長期持続性)心房細動といいます。進行すると心房細動は治りにくくなり、もとの正常な脈に戻ることが難しくなると考えられています。できるだけ早い段階で適切な治療を行うことが大切です。
心房細動は危険な不整脈?
心房細動はそれ自体では危険な不整脈ではなく、たとえ不整脈が出たからといって命にかかわることはありません。しかし、心房細動の状態になると心房の中の血流が悪くなり、血栓(血液のかたまり)を生じる可能性があります。この血栓が心臓の外へ流れて血栓症を引き起こすと、時に命を危険にさらすような病気の引き金となります。なかでも注意が必要なのは脳の血管が閉塞する脳梗塞という病気です。様々な後遺症が残ることもあり、重症の場合には死に至ることも決して少なくありません。その点を考慮すると、心房細動は決して油断できない不整脈ではありますが、血栓症を予防する薬を内服することで血栓の生成はほとんど抑えることができます。むやみに恐れることなく、まずは適切な診断と治療を受けることを心がけましょう。
心房細動と脳梗塞
心房細動は、脳梗塞の主要な原因の一つです。心房細動は心臓の上部にある心房が不規則に収縮する不整脈と前述しましたが、この不規則な心拍により血液が心房内で渦巻き、血栓が形成されやすくなります。この血栓が心臓から血流に乗って脳の血管に流れ込み、血管を詰まらせると脳梗塞が発生します。これを「心原性脳梗塞症」と呼びます。心房細動に加齢や高血圧などの要因が加わると、脳梗塞のリスクが高まります。その発症リスクは、健康な人に比べて約5倍に増加することが知られています。
心原性脳梗塞症は、比較的太めの血管が詰まることが多く、命にかかわるような事態になったり、助かっても重い麻痺が残ったりすることが多いです。そのため、心房細動があるとわかったら、脳梗塞を予防する治療を始めるかどうか、主治医としっかり検討することが必要です。心房細動と脳梗塞の関連性を理解し、早期の診断と適切な治療を受けることが、脳梗塞の予防には欠かせません。
心房細動の発症原因となる加齢
心房細動の発症にはさまざまな要因が関与していますが、加齢はその中でも特に重要な要因の一つです。心臓の構造的および機能的な変化、自律神経系の変化、基礎疾患の影響などがその原因となります。
年齢とともに、心臓の構造にいくつかの変化が生じます。特に心房の壁が厚くなったり、心房が拡大したりすることがあります。これにより、心房の電気的伝導経路が乱れやすくなり、不規則な電気信号が発生しやすくなります。これが心房細動の発症リスクを高める要因となります。また、加齢に伴って心臓の結合組織(コラーゲンやエラスチンなど)の量が増加し、心筋組織が硬くなる「心臓の線維化」が進行します。この線維化により、心房内の電気信号が正常に伝わらなくなり、異常な電気信号が発生しやすくなります。
加齢により、心房の細胞自体が電気的に不安定になりやすくなります。心房細胞の老化に伴って機能が低下し、電気的な刺激が過剰になったり、伝導が不規則になったりします。このような変化が心房の持続的な興奮を引き起こし、心房細動のリスクを高めます。
年齢が上がると、交感神経と副交感神経のバランスが変化し、心拍数の変動や心房内の電気的刺激が不安定になることがあります。この自律神経系の変化も、心房細動の発症に関連します。
高齢者では高血圧、糖尿病、冠動脈疾患、心不全などの慢性疾患が増加します。これらの疾患は心房に負担をかけるため、心房細動のリスクをさらに高めます。特に高血圧は、心房の拡大や硬化を促進し、心房細動の直接的な原因となります。
加齢による心房細動の予防とリスク管理
高齢者における心房細動のリスクを軽減するためには、基礎疾患の管理、定期的な診察、生活習慣の改善が不可欠です。適切な管理により、加齢に伴う心房細動の発症リスクを最小限に抑えることが可能です。
加齢そのものを止めることはできませんが、心房細動のリスクを減らすためには以下のような対策が有効です。
- 基礎疾患の管理:
高血圧、糖尿病、心臓病などのリスク因子をコントロールすることが重要です。これには、適切な薬物療法や生活習慣の改善が含まれます。 - 定期的な健康診断:
心房細動は時に無症状で進行するため、定期的な健康診断で心電図検査を行い、心房細動の早期発見に努めることが推奨されます。 - 生活習慣の改善:
健康的な食生活、適度な運動、禁煙、飲酒制限、適切な体重管理など、心臓に優しい生活習慣を維持することで、心房細動のリスクを減らすことができます。睡眠時無呼吸症候群との関連も示唆されており、検査をお勧めします。
心房細動の検査診断
心房細動は心電図で心房細動を記録することで診断します。それ以外の方法では、診断はできません。
12誘導心電図
健康診断で心電図検査を受けて、心房細動と診断されるケースがあります。また、動悸の症状が気になり、医療機関を受診して心電図を記録した際に、心房細動と診断される場合もあります。
一方で、心電図を記録する際に心房細動が出現していなければ診断ができません。
24時間ホルター心電図
動悸などの自覚症状がときどき現れても、12誘導心電図の検査を受けただけでは異常が見つからないケースは少なくありません。その場合は、24時間ホルター心電図を行い、隠れていた不整脈を見つけることができます。
しかし、不整脈の頻度が少ないケースでは、この24時間ホルター心電図でも異常が見つからない場合も少なくありません。
携帯型心電計
いつ起こるか分からず、まれにしか生じないタイプの不整脈の記録には、携帯型心電図が有効です。デジタルカメラ程度の大きさの機器で、好きな時に心電図を記録できます。現在は、スマートウォッチでも携帯型心電計の機能を持ったものがあります。
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心房細動の治療方針
現在、心房細動の治療を行う場合は、
- 根治を目指して手術する
- 薬物療法でうまくコントロールする
この2つに大別されます。
手術は主にカテーテルアブレーション手術が行われます。年齢が比較的若い方や症状が強い方、進行が比較的軽い方は、手術を検討することが多いです。
一方、高齢で症状もほとんどなく、慢性心房細動の患者さんであれば、手術はせずにうまく付き合っていくのも決して悪い選択ではありません。このような場合は一般的に、薬物療法を継続することを検討します。
以上のように、心房細動の治療方針は、患者さんの「年齢・症状・進行度」の3つの要素に、「患者さんの希望」という要素をプラスして総合的に判断していきます。いずれの場合も、主治医とよく相談したうえで治療方針を決めることが大切です。